さくら

 むかし、函館でお花見をした。小さな子どもたちを連れて。
 桜並木が強い風にざあっとなでられる。
 音もなく舞い降りる花びら。向こう側が見えない。

 「ゆき?」 
  ゆうすけ。まんまるな瞳で首を傾げる。

 「ううん、花。花だよ。」

  はじめての、桜だもんね、とわたしは頷く。

  ゆうすけ、花びらをあびて、風と一緒に揺れる。

 はじめての世界に出会う瞬間。不思議へ躊躇なく飛び込む好奇心。
 いつも桜の季節になると、この風景が浮かぶ。いつまでも一緒にいたいな。ずっと守れるかな。なんて考えていた。
 思い出すと胸が詰まる。なぜだか理由がわからず、この写真のような風景を、今でもずっと持ち歩いている。