本当にあきらめていた出逢い。

もう、出逢うことはないとあきらめてた。
山田太一

彼の小説は、もうないんだろうな、と。
今日、書店で見つけて即買いし、そのまま喫茶店で読む。単行本を待つことなんてできない。
帯に書いてあったのは、本人のことば。


わたしは、躊躇していたことを、声を大にして言う。

日本のことばは、縦書きがいい。
文章の明瞭さも、漢字、ひらがなの美しさも、豊かな文化は縦書きに秘められている。

古くさいと、偏屈だと、だからモテないんだと
そう言われたら、そうだよ、とかえそう。
なぜ、非難されると、遠慮してしまったのか。
もう、時間を無駄にはしない。


わたしは、声を大にしていう。

文字を、表記を奪われることは、国を奪われることと同義ではないか、と。
そして、アイヌの、韓国の、中国の、たくさんの人々の、それを奪ったことを恥じる。


なにも、叶わなかった。そして、叶うことのない人生だった。
あと数十年、わたしには残されているけど、きっと変らないだろう。
変らない、くだらない人生に、小さく灯る明かり。ふっと本物の笑顔が見える。


わたしは、山田太一が好きだ。彼の表現する不器用で、どうにもならないような、
好ましくない世界をのぞくとき、やけにリアルに小説が現実に思え、
フィルターがかかった自分と外界が、つながっていくように感じるのだ。

空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)

空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)