涙 海

とても親しかった友人からファックスが届いた。

文面から見ても、性格を思っても、
書きながら涙が止まらなかったんだろうなと
容易にわかる。15年前。
諫早湾を閉じた日。
幼い頃、転げ回るように遊んだ場所だったと
綴ってあった。




ファックスから立ち上る、
海の音、風。
あの感覚は忘れない。
打たれるままに全身で痛みを受けてしまう、
こんなに優しい友人を傷つけるのは罪だと、
もらい泣きした。




穏やかな海を見つめながら、
なんてやさしい土地なんだろうと、
無防備な姿勢で見つめていたっけ。
きらきら水面が輝いていて、
なまあたたかい風がくすぐったかった。



山には赤い彼岸花
段々畑、軽自動車。



夜の海には夜光虫がいて、
なんでもめずらしくて、
子どもみたいに遊んだ。 



友人の涙を拭いたい、と。
立派な主張なんかない。
祈る。願う。
ただ、それだけ。


取り戻したい、と。
人肌の涙を流しつづける友人の笑顔を。
なすすべもなく、崩れるなんて。
しらじらしいしぐさに嫌気がさす。



静かな意志で、
立っている。